新型コロナウイルスでアジアのカジノ産業が大打撃

もし日本のIRが既に3カ所開業していれば、武漢で発生した新型コロナウイルスの拡散は業界にとって最悪なニュースになり、日本のゲーミング業界は、マカオやシンガポールなどのアジア市場と同じ苦難に直面していたであろう。

マカオの旧正月期間中の訪問数は悲観的な数字になっているが、多くのアナリストは潜在的な需要は依然として高く、コロナウイルス危機が緩和されると復活する可能性が高いと述べている。

木曜日の時点で、新型コロナウイルスによる死者が170人、さらに約8000人の感染者が確認されている。感染の拡大が世界中で報告されており、フィリピンでは木曜日に最初の感染が確認された。日本、タイ、カンボジア、マレーシア、シンガポール、韓国、およびオーストラリアなどのアジア地域で感染は確認されている。

感染拡大を抑えるためにマカオ政府は旧正月の祝祭をすべてキャンセルし、政府サービスの閉鎖をさらに2日間延長した。中国からのインバウンドパッケージツアーもキャンセルし、さらにカジノにとって最も価値のある顧客が利用する個人用ビザ配給も停止された。現地の報告によると、売店、レストランやカジノのフロアはほとんど無人な状態が続いている。

現時点で旧正月期間中の中国本土からの訪問者は、前年比で90%減少している。先週、マカオ最高経営責任者のホー・イアット・セン氏(Ho Iat Seng)は、状況が悪化した場合、カジノを閉鎖する可能性についても警告した。

バーンスタイン・リサーチは「旧正月のマカオはキャンセルや訪問者数の急激な減少により大打撃を受けており、1月と2月の前年比では大幅な減少を予想しています」と述べている。2020年第1四半期の業績は当初の予想より間違いなく低くなることを付け加えた。

さらに、旧正月を囲む17日間は過去3年間で年間総ギャンブル粗利益の約5.5%を占め、1月と2月で年間ギャンブル粗利益の16〜17%を占めているとバーンスタインは指摘した。

今年、好調なスタートを切っていたサンズは、中国と米国との間の貿易協定の可能性により2019年最大なマイナス要因を排除できる見通しであるアナリストが指摘している。その結果、ジェフェリーズ(Jefferies)によるとサンズの幹部は潜在的な需要は依然として高いと述べた。

「2020年に焦点を当てると、経営陣は『嵐がいつ終わるか』が不明確なままで訪問者数は低い状態が続く」とメモに書いた。 「経営陣たちは貿易協定取引のフェーズ1が肯定的であり、フェーズ2の取引の可能性もあるため、行き詰まった状態の需要は存在すると考えています」と述べた。しかし感染拡大が制御されるまでは逆風が続くと付け加えた。

アジアの他の地域では、新型ウイルスはマカオと同じような劇的な影響を与えていないが、アナリストは被害の評価を行っている状況である。

サンズ・チャイナは、マカオほどの規模ではないが、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズの運営に影響を受けていると指摘した。

メイバンク(Maybank)のアナリストであるサミュエル・イン・シャオ・ヤン氏(Samuel Yin Shao Yang)は、2009年4月から2010年8月にアジアを襲ったH1N1ウイルスと、2015年5月から7月に中東呼吸器症候群の流行はシンガポールとマレーシアに大きな影響を与えなかったが、2002〜2003年のSARSの大流行は影響があったと指摘している。

「残念ながら、武漢で発生した世界的大流行はSARSに似ていると考えています。世界的大流行の発生地は中国であり、致命的ではないものの、SARSよりも伝染性が強い。」

しかし、ヤン氏はSARSの流行中に中国政府は個別のビザ制度を導入し、マレーシア政府はリゾーツ・ワールド・ゲンティン(Resorts World Genting)のカジノ税を再検討したため、投資家にはこの地域のカジノを警戒し過ぎないように促した。 マレーシアの2018年予算で課せられた懲罰的な増税とシンガポールの地元住民のカジノ入場料上昇についてヤン氏は、「マレーシア政府が10%のカジノ税率引き上げ、シンガポール政府が新型ウイルス大流行中は50%のカジノ入場税引き上げ、それぞれを一時的に戻した場合、(ゲンティン銘柄の)GENM、GENT、およびGENSに有利になる可能性があります」 と言及した。

J.P.モーガンによるとオーストラリアでは既に減速している中国人の訪問者にたいして、新型コロナウイルスは「浮力の少ない」環境を作り出してしまうと語った。2020年度の訪問者数はわずか3.6%増加し、中国人に関しては7月から10月に2.6%増加した。中国からの訪問者は全体の約3分の1を占めている。

「中国人観光客は、外国人観光客の中で最も消費が多いセグメントです」と述べ、 「カジノはアジアのツアーグループを引き込むためのブロックルームを提供しており、EGM(スロットなどの電子ゲーミング機器)は中国のカジノ愛好家をターゲットにしたゲームを導入しています。」

新型コロナウイルスによる苦難は、オーストラリア全土で猛威を振るっている山火事と重なり、すでに弱まっている観光市場の見通しをさらに悪くしている。

2019年のアジアで最も急速に成長している市場の1つであるフィリピンでも、マニラ近郊のタール山の噴火により観光市場の減速に備えている

INGフィリピンのエコノミストであるニコラス・マパ氏(Nicholas Mapa)は、「一部の観光客は支払いアプリやその他の電子支払いを利用してフィリピンで取引をしていますが、ウイルスの恐怖心による観光客の減少は、急成長と安定の逃しをみせていた外貨源を減速させる可能性が高いです」と注意した。 「一方、全世界で旅行者数は全体的に減ると予想されるため、直接的な経済的影響は消費面に及ぶでしょう。」

フィリピンはゲーミング業界の観点からマレーシア、ベトナム、カンボジアなどの同地域のライバルよりも有利な点がある。フィリピンでは自国民もカジノでギャンブルをすることができ、収益をサポートする地元の市場が存在する。

日本に関しても、インバウンド観光産業がマイナスの影響を受けることは確実。将来の日本IRにとって最も重要な教訓は、「予期しないことも予期すること」。完璧な計画も時には短期間でも計画通りにいかないことがあり得る。(AGB)