北海道ホワイトIR構想が見送りへ

北海道の鈴木直道知事によるIR誘致を見送りする決断は、一つの自治体がただ単に競争から降りたということでなく、関西・関東外の最も大きなIRイニシアティブの崩壊ということでもある。北海道は地方IR候補地の中で最も経済的リターンが期待されるIRになれたと考えられる。

また、苫小牧市は2017年に「北海道ホワイトIR構想」をめぐり日本初の地方における情報募集(RFI)を発足したもので、大阪と共にあらゆる面でいち早くIR開発に対して動きを見せた自治体である。苫小牧市は海外のIR事業者から関心を寄せることにも成功していた。

北海道のIRイニシアティブに終止符が打たれたことにより、苫小牧市に注力し事務所まで開いたハードロック(Hard Rock)、ラッシュ・ストリート(Rush Street)、モヒガン(Mohegan)、クレアベスト(Clairvest)はIR競争から完全に落とされるだろう。現時点ではこれらの事業者はこの一週間の出来事に対してコメントを提供していない。

鈴木知事は「候補地は希少な動植物が生息する可能性が高く、区域認定までの限られた期間で環境への適切な配慮を行うことは不可能」と説明した。

苫小牧市のRFIが発足されてからの2年間、足を引きずっていたのは北海道政府であり、以前に行われた何回かの調査では環境の懸念は問題になり得る要素として議論されていなかった。

環境影響評価は、北海道がIR誘致を見送りした理由ではなく、都合のいい理論的解釈であるという可能性も考えられる。

鈴木知事の判断を大きく影響したのは、道民にIR開発が支持されていなかったことだけでなく、鈴木知事が所属する党派の中でも賛否両論だった事実であるかもしれない。

岩倉博文市長に牽引された苫小牧市は、最初から目的をもって決定的に行動していたが、国家レベルでも都道府県レベルでも同じような勢いは見られなかった。

先月のAGB Nipponで述べたように「政府が規定における公的な責任をとらないままでは、対社会関係の負担が移された地方自治体とビジネス界は、それぞれのIRイニシアティブを自力で擁護するしかない」という状況である。

安倍政権はIR整備法を押し通したが、一般市民に理解してもらおうとした努力は特になく、選挙が間近になると問題をさけるように振る舞った。

また、北海道には、大阪の松井一郎知事や和歌山の仁坂吉伸知事のようなしっかりとしたIR賛成派の知事がいなかった。それぞれの知事は選挙の時でもIRイニシアティブを促進し、恥じるものではなく胸を張って語るものとしてIRを提唱していた。

北海道の場合、高橋はるみ前知事は個人的に苫小牧市のIRイニシアティブを支持していたかもしれないが、今年の4月の辞任までは公に支持を示す覚悟はなかったと考えられる。

4月7日の北海道知事選挙では、道内のIR誘致を揺るがずに反対していた石川知裕氏と最終的に勝利を収めた現知事の鈴木直道知事の対立だった。鈴木知事は根強くIR誘致に対するスタンスをはっきりとせず、ゆっくり検討していくということしか述べることはなかった。

2年間半「白紙」のスタンスを採択しながらずっとIR開発を支持していたと考えられる横浜の林文子知事と違って、鈴木知事が方針を決めていないと主張してきたのは本当だったようである。

北海道の保守派が団結して苫小牧市のIR誘致を支持していれば、鈴木知事も賛成して道の後ろ盾を与えた可能性が高かったかもしれない。

しかし、鈴木知事は自分がコミットもしていないイニシアティブのために政治資金を使って支持者の何割かを疎遠にしたくなった。若いとはいえ、鈴木直道知事は慎重な政治家である。

鈴木知事は、付与されるIRライセンスの上限が今後3つ以上に増やされることになれば、苫小牧市がIR誘致に挑む可能性があると示唆した。実現するとなれば2028年のこととなる。

そのときに同氏がまだ知事を務めていたら、IR支持者が自力で道民を説得しなければならないが、そうすれば鈴木知事は道民の意に従うでしょう。(AGB Nippon)