大阪、IR再検討の瀬戸際か

IR開発が進む過程の様々な時点で、大阪の先導者たちが3つあるIRライセンスの取得に向けて上手い具合に進捗しているように見えていたが、今は松井一郎市長と吉村洋文知事が一旦身を引いて、改まった視点で状況を確認するタイミングかもしれない。

大阪府は2月14日、事業者公募選定の第一結果を発表したが、その結果に驚きを禁じ得ない。夢洲のIR誘致競争に残っているのはMGM・オリックスのコンソーシアムのみである。応募は一つしかなかったそうだ。

短期間でなんという状況の変化。

2018年11月に2025年国際博覧会の開催地がめでたく大阪に決まったとき、様々な要素がうまく収まり、ゲーミング業界が火をつけられた。その刺激が何ヶ月も続いた。

2019年1月に、MGMリゾーツ(MGM Resorts)は「大阪ファースト」方針を発表し、市場に目を付けていることをはっきりと示す初の事業者となった。同年の3月には、オリックス株式会社との強力なパートナーシップを発表した。

「第1回[関西]統合型リゾート産業展」が開催された2019年5月が最高点だったかもしれない。当時はシーザーズ(Caesars Entertainment)、ギャラクシー(Galaxy Entertainment)、ゲンティン(Genting)、メルコ(Melco Resorts & Entertainment)、MGM(MGM Resorts)、サンズ(Las Vegas Sands)、ウィン(Wynn Resorts)の7つの事業者が大阪の座をめぐり競争していた。

2019年同月、ジャパン・ゲーミング・コングレスに参加したメルコリゾーツ&エンターテイメント(Melco Resorts & Entertainment)会長兼最高経営責任者のローレンス・ホー氏(Lawrence Ho)は、大阪夢洲の綺麗なコンセプト映像を持ち、イベントでの注目を一番に浴びた。

このときに、ラスベガスサンズも「大阪ファースト」方針を発表することが間近で、社長兼最高執行責任者であるロバート・ゴールドスティーン氏(Robert Goldstein)は「大阪に完全にコミットしている」と述べ、バーンスタイン・リサーチ(Bernstein Research)の2019年ストラテジック・デシジョン・カンファレンス(2019 Strategic Decision Conference)にて「何万平方メートルのコンベンション用の施設や何千室のホテル客室のある大型IRの建設に適しているのは大阪のみである」などの発言をしていた。

大阪がほぐれ始めたのは、2019年8月に横浜が突如にIR誘致の参加を発表したことが原因である。

関東地方の収益ポテンシャルが関西地方より大きなものであるのはよく理解されていることだが、しばらくの間は関東地方の中に手を挙げる自治体はなかった。横浜がようやくそうしたとき、大阪のIR誘致計画から空気が抜けていくのが耳に聞こえるようにはっきりしたものだった。

サンズからメルコ、ウィンが順番に大阪とのお別れを告げ、熱心に横浜の入り口に並べに行った。このときに、シーザーズが自社の都合で競争から身を引いた。夢洲を争う7つの事業者が3つとなった。

3つとはまだ納得のいく数だが、1つだとそうは言えない。ギャラクシーとゲンティンが退場したことにより、大阪府は難しい状況の中に残された。現時点の選択肢は、MGMオリックスコンソーシアムが提供する提案を受け入れるか、競争から身を引くという非常に難しい決断をするかだ。

何があっただろうか。たった9ヶ月で大阪は何の風の吹きまわしで事業者たちが最もパートナーシップを結びたい自治体が取り残される立場となったのか?

横浜がIR誘致競争に乗り出したことが紛れもなく大きな要因だ。もう一つの考えられる要因は、MGMオリックスという組み合わせの強力さ。MGMの立ち位置があまりにも有力であることと、同社のジム・ムーレン氏(Jim Murren)が競争に勝つためであればどんなことでも言うのが明白だったことで、他の有力なライバルにとってそんな相手と入札合戦するほど戦利品がおいしくないと結論付けた可能性が高い。

オンレコで証言する方がいるとは考えにくいが、松井市長と吉村知事に対する疑問が徐々に広がっていたかもしれない。2025年国際博覧会までに夢洲IRを開業すると主張していたことに一理はあったが、そのせいで国際的事業者はスケジュールだけに集中して実地の問題を見なくなり、逆効果をもたらしたかもしれない。また、現地における状況で最適とは言えないところもあったと考えられる。

独立したコンサルタントとなったハードロックの日本における活動の右腕だったダニエル・チェン氏(Daniel Cheng)は、大阪に「ブレーキを踏んで、横浜を先に行かせる」とアドバイスしているようだ。同氏は「大阪の事業者選定は、横浜がIR事業者を決めてから開始すべきだ。そうすれば残された大手事業者は必然的に大阪の競争に戻る」と説明した。

理屈の通った意見だ。日本の2番目に大きい都市圏を代表する自治体がその最も大きな都市圏を代表する自治体より先に事業者を選定する理由はどこにあるのだろうか?最大の戦利品が議論から外れれば、その次のための競争に花が咲くでしょう。

もちろん、この考え方は大阪の先導者たちの虚栄心や一番になる欲望に沿っていないが、長期的な意味では最も理にかなっているかもしれない。

2025年国際博覧会までにIR開業する可能性は低いため、急ぐ必要があるだろうか。ゆっくりとしっかりやったほうがベスト。再検討が必要なのだ。(AGB Nippon)