和歌山IR誘致のキーワード「シナジー」

多くの者にとって、和歌山県のIR誘致は大阪の夢洲開発との距離が近いため、3つあるライセンスの一つを取得する期待が薄いものだ。しかし、和歌山県はこの弱点とみられる要素を強みに変えようとしている。そのキーワードは「シナジー」。

この考えは、和歌山のマリーナシティ候補地にライセンスが付与されれば、大阪のIR開発と重なったり食い込んだりすることはなく、むしろ両方の存在が互いに強化し合うということである。

直線距離では大阪市と和歌山市はそう離れていないが、雰囲気が非常に違うことを誰もが認める。大阪は日本の最も大きくて繁栄している都心であって、和歌山は日本の老化と衰退が進みつつある地方である。

JR和歌山駅周辺は平日の昼間でも著しく静かなのは事実だ。午後20時には多くの販売店と飲食店が閉まっており、人通りがほとんどない。経済の活動は、IR候補地として検討されているマリーナシティを通る国道42号沿いにある。

和歌山県は、夢洲のマス市場に向けた大型施設より、リゾート型でゆっくりした雰囲気を誇る控えめなIRを建設すると以前に主張している。ウォータースポーツや周辺の山と神社の観光も重要となる。大阪で提供される体験とは非常に違うものになるため、二つの都心が競い合っているとは言い難い。

和歌山県は、県内の候補地に興味を示している国際的事業者へこのビションを売りつけることに成功しているのが明らかである。現時点では、フランスのグループ・ルーシエン・バリエール(Groupe Lucien Barriere)、フィリピンのブルームベリーリゾーツ(Bloomberry Resorts)、マカオのサンシティ・グループ(Suncity Group)が和歌山県のビジョンを信じ、賭けることにしているようだ。

和歌山のIR誘致を最初から牽引している仁坂吉伸知事にとって、解決しないといけない政治的な問題が潜んでいた。その問題は、カジノ施設の入場が外国から来日した裕福な訪問者のみで日本市民は入場禁止という尾花正啓市長の意見だった。その尾花市長はこの政綱をもって2018年7月に再選を果たした。

つい最近の2019年12月に、尾花市長は仁坂知事の計画に協力する気になったと示唆するようなコメントを残している。尾花市長は自身の外国人専用カジノ提案について「国の基本方針案を見ても、現実に合わないのも事実だ」と述べている。

大阪の先導者たちが和歌山の「シナジー」ビジョンを提唱するようになったことにより、一つの山場になりかねない要素が解決した。

大阪の吉村洋文知事は先週「和歌山の特性を生かしたリゾート型のIRをやりたいとのことだから、それぞれ切磋琢磨したい」と述べ、「都市規模も対象の事業者もちがう。特にライバルとは思っていない。ライバルは横浜ですよ」と続いた。

横浜も大阪もライセンス付与へ近づいていると仮定すると、小規模の地方IRのためのライセンスが残ることになる。

和歌山の最も危険なライバルは北海道の苫小牧市だったが、道府がIR開発から身を引きつつあるため、その危険性も薄れてきている。これで長崎のハウステンボスIR計画が和歌山の主な競合相手となる。

和歌山は大阪・夢洲のIRとの経済的「シナジー」が遠くに位置する九州のIRイニシアティブに勝ることを望んでいるでしょう。(AGB Nippon)