和歌山、IR誘致先送りの必要性を描く

今週はあるお知らせが届いた。この誰も予期しなかったものでポジティブとは言えないお知らせとは、和歌山県内にあるマリーナシティの開発をめぐり、和歌山県とパートナーシップを目指し申請書を提出したIR事業者は、サンシティ・グループ(Suncity Group)だけだということである。

厳密に言えばもう一つの事業者、クレアベスト・ニーム・ベンチャーズ(Clairvest Neem Ventures)も申請書を出したが、同者は事業者になることを目指しておらず、申請の締め切りに間に合わなかったもう一つの事業者を含むコンソーシアムのために事業者公募に応える「クォーターバック」のような役を担っている。クレアベストはそのコンソーシアムパートナーを明らかにしていないが、サンシティではないということが確かだ。パートナーとなる企業は新型コロナウイルス感染症(Covid-19)をまつわる急迫した事情により自分たちで申請書を出すことが出来なかった。

事業者の一覧にはブルームベリー・リゾーツ(Bloomberry Resorts)とグループ・ルーシエン・バリエール(Groupe Lucien Barrière)が著しくも載っていなかった。両社とも和歌山の現地民の支持を得ようと何年も活動していた。この2社が事業者公募に参加しなかったのもCovid-19の影響によるに違いない。

ブルームベリーの代表者は、市場の不安定とパンデミック中に人と対面も出来ないことを挙げ、不参加の背景を認めた。

バリエールの代表者はコメントを拒否したが、フランスの危機的状況により同社の本部は当分閉鎖しており、日本IR誘致における重要な役目を果たす予定だった人材も一時帰休しているようだ。

ブルームベリーは、シンポジウムや和歌サンタランなどの冠イベントに参加していた。バリエールは、キャンペーン・アンバサダーとして俳優のジャン・レノ氏(Jean Reno)を招待し、現地だけでなく日本中から注目を集めた。しかし、両社とも事業者公募への不参加はAGB Nipponが何週間も懸念してきたことの具現化である。

和歌山は長い間、規模の小さめな地方IRを目指す企業にとって最も望ましいIR誘致候補地の一つだった。IR誘致競争から降りた北海道の苫小牧の次に注目されてきた候補地とも言える。しかし今となっては、重要な事業者公募には1.5社しか手を挙げていない。

事業者側の熱意はともかく、世界的規模パンデミックの緊急事態下で事業者公募を実施しようとするというのは途轍もないことだ。何ヵ月もしくは何年もコミットメントを示してきた企業がこの一つの歴史的瞬間の混乱と不安定のせいで後れをとっている。

非があるのは和歌山県ではなく、国土交通の赤羽一嘉大臣の頑固さと大体において安倍政権だ。そのブルドーザー手法は、「決心の強さ」が綿密な計画と柔軟な知性の代わりになり、車輪が転がり落ちるまで方針を大きく変えたくないというメッセージを送り続けているが、まさに今和歌山からその車輪が落ちていると言える。

4月末にベイシティベンチャーズ株式会社の國領城児氏がリリースしたレポートで的確に指摘されたが、国がIR基本方針の最終案を開示する期限である7月26日を変更するにはIR推進法の改定が必要であり、このような煩雑な手続きを避けたがる。

安倍政権がこの際に前進するという決心の強さを見せたいのであれば、既存の課題をこなすことに専念すべきだ。7月26日の前にIR基本方針を開示することと、国政レベルで重要な規制詳細も完全にする必要がある。

例えば、IRコンソーシアムとカジノ利用者の具体的な税務上の責任は?事業者がイニシアティブにおける投資を計算するために非常に重要なのに、安倍政権は未だに課税方針を明確にしていない。日本は発端から方針を公正かつ透明にするより、国際的事業者は基本的な規制枠組に対して当てずっぽうで対応するようにと言っているようなものだ。

また、国民が最も懸念している問題であるギャンブル依存症に対して安倍政権は具体的にどのような措置をとるのか?このような問題に対応するための責任ある枠組を構成する話が沸いているが、科学的に信頼できる依存対策または資金源について情報が著しく乏しい。政府側からこの問題に取り組む意欲があまり感じられない。

どう考えても一時停止ボタンを押す時は来た。申請書提出の適当な締め切りに向けて大急ぎでやみくもに突き進むより、Covid-19危機が過ぎ去ったら地方自治体や悩まされているIR事業者が再び足場を固められるよう、安倍政権はまずIR方針をきちんとする必要がある。(AGB Nippon)