日本の統合型リゾート演劇

ダニエル・チェン

日本における統合型リゾートの長くて屈曲だった道のりは昼ドラのようなものである。展開の遅いペースを考えると、米国NBCで半世紀近く放映されているデイズ・オブ・アワ・ライヴスとはいい勝負になる。

5年前に、世界第3 位の経済大国でカジノゲーミング規制緩和の可能性が沸き上がり、世界中が儲け話に聞き耳を立てた。日本におけるカジノ合法化は以前まで、決してあり得ないこととされてきた。

しかし、ゲーミングによる莫大な利益に対する貪欲は愚直さを生むもので、史上最高の統合型リゾートを建設するぞと言い張る企業重役が仕立ての良いスーツを着て、小切手帳を手に握って日本に集結した。

この話は20年前からされてきて実現化の見込みが薄く、さすがにその情熱には不安と躊躇いが十分に混ざっていた。

IRカンファレンスのため国際と国内の事業者がぎゅうぎゅうと集まっているホテル会議室を想像しましょう。後者は前者と握手を交わし名刺の交換を望んでいるが、前者は同じようにカンファレンスに一応出席している政治家と握手を交わし名刺を交換することが本望。

採用されたばかりの名門大学卒の若くて活動的な執行役がピンストライプ柄のスーツを着た金髪の中年男性と会話しているとしよう。

若くて活動的な執行役:「国会で政府が過半数を占めているから、合法化はほぼ決定だ」

ピンストライプの中年男性 :「素晴らしい!ワクワクするね。最高のゲーミング市場になるし、業界の次の大ブームになると言われている」

若くて活動的な執行役:ええ、そうだと願っている。政府はシンガポールのIR成功モデルを研究してきたし、それを超える成果を収められると考えているようだ。これから10~15年の間に日本で統合型リゾートは開発される」

ピンストライプの中年男性 :「素晴らしい!まったくもって素晴らしい!建設はどこだ?日本中?各大都心?いやぁ、東京が大好きだよ。東京なら大成功でしょう」

若くて活動的な執行役:「東京は人気候補だね!ほかの大都市、大阪や福岡もあがっている。でも、経済回復のために政府は地方候補地も検討する可能性があるから、長崎や北海道もあり得る」

ピンストライプの中年男性 : 「長崎は微妙じゃないかな、正直なところ。マカオやヨーロッパの連中なら話は別かもしれないけど、ベガスの私たちが地方でやるのはあまりあり得る話とは言えない」

若くて活動的な執行役:「そうか…」

ホテル会議室の奥で、カンファレンス主催者の一人である日本の学者がヨーロッパのなまりでしゃべるはげ頭でかっぷくのよい紳士と会話をしている。国際的事業者は大まかに二つのグループに分かれる:ベガスの看板ブランドとアジアの大手カジノ業者が構成するビッグ・ボーイズ・クラブと、グローバルゲーミング市場で言うと小物であるそのほかの米国のローカル事業者やヨーロッパの事業者。

学者:「日本人はヨーロッパの文化にとても憧れています。私としてはいつかエッフェル塔、コロセウム、バビロンの空中庭園に行ってみたいですね。あなたの企業もヨーロッパの豊かな文化を表したIRを是非作ってほしいです」

ヨーロッパ紳士:「まぁ、厳密に言うと空中庭園はヨーロッパではなくて…」

学者:「現在のヨーロッパではないが、昔のバビロンはアレクサンドロス3世の時代にローマ帝国の一部だったではないですか?」

ヨーロッパ紳士:「ええ、まぁ、そうだね、大昔にはね。それにしても、日本人や中国人はヨーロッパが大好きだね。一年中、ヨーロッパの各地でアジアからの観光客を毎日のように見かける。ヨーロッパ風のIRなら日本で大成功するはず」

学者:「同感です。その現実が早く見たいものですね。あなたの企業は日本のどこでIRの建設を考えていますか?」

ヨーロッパ紳士:大都市圏ではヨーロッパの文化や風情を十分に発揮できないと考えている(言い換えれば、大都市では勝負に勝てない)ので、地方の伝統や文化が豊でヨーロッパの歴史、芸術、建築に似合ったところを検討したい」

学者:「いいですね、いいですね。同感です。該当する地方都市がいくつかありますし、出席している中で和歌山、長崎、北海道、宮崎の役人ならご紹介です来ます」

ヨーロッパ紳士:「ご親切にありがとう。ヨーロッパのリゾートはライフスタイルとエンターテインメントの極みなので、提供できることがたくさんあるかと。アジアの人々は食べることが大好きだから、ヨーロッパの豊かな食文化も言うまでもないね」

学者:「ヨーロッパ風のIRは確かにそれぞれの地方候補地に多様性をもたらしますね。」

IRカンファレンスの展開は年に2~3回開催される演劇のようなものだ。出席するのはだいたい同じ顔ぶれで、同窓会のようなものに近い。これは社交辞令であり、日本での議案通過運動の仕方の大きな一部である。カンファレンスでのプレゼンテーションをしっかり聞いている者がいないため、内容が大げさだったりつじつまの合わないものだったりしても関係ない。

日本でこの類のカンファレンスで裏取引などは行われない。それは、国家機関内で見返りの話はとっくに済まされているからだ。(AGB Nippon)