今から1年前、日本IRの開発において多くの不確定要素が残っていた中、ほぼ確定事項として捉われていた事は一つあった。それは、大阪湾に浮かぶ人工島の夢洲には世界規模の大きさを誇るIRが出来ること。しかし、最近ではこの計画でさえ確実性を失い始めている。
依然として夢洲がいつかは主要なIRの会場になる可能性は非常に高く、その施設をMGMリゾーツ(MGM Resorts)が開発し運営する可能性も残る、以前のようにこれが確実であるとは言い難い。
今後に向けて重要な要素の1つは、松井一郎大阪市長と吉村博文知事が率いる府市の意図は堅実なままであること。彼らは今もIRに対するり組みを続けており、今後松井一郎大阪市長と吉村洋文知事が率いる地方自治体の意志は固く、今後数年は政治的権力を維持できる状況にいる。大阪の合意形成も、横浜市民による大きな反対に比べると、IR開発計画に比較的寛容である。
また、現在は更地状態の夢洲は、2025年世界万国博覧会の開催に向けて開発が必要としている事実も残る。未来を予測することは困難だが、ワクチン開発や効果的な医療法によって、新型コロナウィルスの影響が2025年までに最小限に抑えられる可能性が高いと思われる。順調に物事が進んだ場合、夢洲には予定通り何百万人もの外国人訪問者が開催年には訪れることになるであろう。
それでも2025年の万博とIRの開業による相乗効果を生み出すという目的が今や失われていることも明らかであり、最も楽観的なシナリオでも夢洲IRが開業するのは2028年頃となっている。そしてその夢洲IRが実現するとすれば、今から1、2年前に言われていた1兆円から1.2兆円という世界有数の規模から縮小されているかもしれない。
シェルドン・アデルソン氏(Sheldon Adelson)、ローレンス・ホー氏(Lawrence Ho)、ジェームズ・ムーレン氏(James Murren)らは、日本でのIRレースに勝つために「必要なことを何でもする」というかつてのリップサービスの競争は最近では聞かなくなった。サンズのシェルドン・アデルソン氏は日本を立ち去り、メルコのローレンス・ホー氏は似合わず沈黙を貫いている。
ジェームズ・ムーレン氏の後継者であるウィリアム・ホーンバックル氏(William Hornbuckle)は、MGMリゾーツのトップとして初の決算電話会議で、非常に慎重な口調を示した。「解決すべきことはたくさんあります」と話すホーンバックル氏。「この投資は、賢明であると思えた場合のみ行います。相応のリターンがあり、我々の期待に応えるのであれば。まだまだ長い道のりです。」
また、ホーンバックル氏は最後に「我々はこの投資案件に全力で取り組んでいない現状を良い事だと思います」と付け加えた。
昨年2月にムーレン氏が発した「MGMが大阪ファースト戦略を採用することを、大阪市長と知事に約束しました。私たちは相当なリソースを大阪に集中させています」という公式メッセージとはほど遠いものである。
日本のMGMのチームは、大阪の地で関係を構築するために5年以上も執拗に取り組んできたため、他のすべての主要な国際IR事業者は結局のところMGMの焦点の強さに匹敵することはできないと判断した。ライバルは一社ずつ大阪から撤退していった。特にMGMとオリックスコーポレーションとの強力なパートナーシップは、他のすべての大阪の野望を制するものであるように見えた。
しかし現在、日本のIRという目標が手に届くところに来ている段階で、MGMの新しいリーダーは株主に「この投資は賢明だと思う場合のみ行う」と述べている。このメッセージを発信するには多少遅いともいえる。
もちろん、実際に変わったのは世界そのものであり、新型コロナウィルスは多くの大切な計画と期待を振り出しに戻してきた。緊急的な事業停止や海外渡航の制限により財政的損失が山積しているため、大胆な投資スキームを削減する必要はある。
夢洲の開発計画は特に大打撃をうけている。大阪メトロは2024年までの建設を計画していた高さ250メートル、1000億円規模の夢洲ステーションタワー(ホテル、娯楽施設、オフィスを含む)という野心的な計画を再考していると言われている。夢洲の殆どの訪問者が通過する中心的な施設の開発は、基本的な地下鉄の駅のみになってしまうかもしれない。
夢洲への線路延長計画を発表した鉄道会社のJR西日本、近鉄、京阪もすべて、これらの高価なプロジェクトが最終的に企業の経済的損失に繋がりかねないかと懸念していると言われている。夢洲への十分な交通インフラは疑わしい状態にある。
それでも夢洲IRが実現しないと言うには時期尚早である。地元の強力な政治的リーダーシップが多くの障害を乗り越えて物事を進めさせる可能性のほうが今はまだ高い。しかし、今日現在の夢洲IRの夢は、以前のビジョンに似ているかは分かりかねる。(AGB Nippon)