ラスベガス・サンズ(Las Vegas Sands)が今週、本拠とするラスベガスから撤退しアジア中心の事業体に移行する可能性を検討している事実を認めたことで、ゲーミング業界全体に衝撃が走った。
現時点では一つのコンセプトとして公にされているが、60億米ドル(約6280億円)というラスベガスの資産価値を仄めかした同社は、実際に買い手が存在するのかまたは舞台裏で交渉が進んでいるのかは明かしていない。
未だサンズはアメリカ市場を離れる理由付けをしていないため、アナリストや評論家の予想が飛び交っているのが現状。どのコメントにも今後訂正などが必要になるが、カジノ産業へ多大な影響を考えると時期早々だとしても分析しないでいられないトピックである。
最終的にサンズがラスベガスを去ることがあれば、非常に大胆な行動ではありながら、過去20年間の動向を考慮すると全体図としては必然的な結果として捉えることも出来る。
米国事業者の中ではサンズは特にマカオ市場への展開に積極的に動いてきた。世界有数の収益を誇るIRが並ぶコタイ・ストリップは、サンズが中心に沼地から現在の姿に開発されてきた。サンズのマカオ市場の収益がラスベガスの施設を追い越し、いずれ大きく突き放すまで成長した。
また、マリーナベイ・サンズが世界一の利益を生むIRに成長し、マカオでの成功をシンガポールでも達成した。
その結果、全体収益の85%がアジア、15%がラスベガスという事態に発展した。
また、最近のネガティブな出来事が米国内の投資から手を引く動きに影響しているのかもしれない。
一つ目は収まる事がない日中関係。サンズは現在、金融的にはラスベガスよりマカオ市場に重きを置いているため、数年以内のマカオのコンセッションの更新プロセスに向けて同社は米国のアイデンティティを薄める戦略を考えている可能性もある。
二つ目の新型コロナウイルス(Covid-19)も同じような影響がある。武漢から始まった世界的パンデミックにもかかわらず、中国経済とマカオのゲーミング産業は米国の復興よりは早く完全体に近い形に戻ると予想されている。
さらに、サンズがラスベガスで展開するビジネスモデルは特にMICE施設などのゲーミング以外の要素に依存している。ラスベガスに今まで通りに大規模な展示会が戻るのは数年かかるかもしれない。
ここで、日本への影響はいかに。
サンズがラスベガスの施設を手放すことによる現金の増加はアジア市場への投資機会も増やし、日本のIRレースにも再度参加するという声もあがっている。
しかし、このような意見はそもそもラスベガスを離れる理由であろう低い利益率の問題を見逃している。サンズの幹部は日本のIRは税金を無限に課され、利益を生むことができないと信じている点に関して、日本のレギュレーションには特に対応はされていない。
日本IRには悪影響を及ばす可能性もある。ラスベガスにおけるサンズの60億ドルの施設を買えるIR事業者は数少ないが、リストアップするとしたらMGMリゾーツ(MGM Resorts)が上位に入ってくる。このような買収に興味はあるか別として、MGMが例えばラスベガスで莫大な資金を使った場合、大阪への投資のための資産が減る。
また、日本でも今回のサンズの行動からMICE施設とカジノを統合したビジネスモデルへの意味も読み取る必要がある。このビジネスモデルを生み出したサンズがラスベガスを離れマカオに集中することにより、自ら発案したモデルを否定していることになる。これは我々もMICE業界に対するパンデミックの影響の一部である。
しかし、現時点で何かが実際動いたわけではない。今週、サンズはアジア中心のビジョンを検討しているまでは事実であり、日本IRにかかわる人々もこのトレンドと今後の展開に注目し、意味を読み解かなければならない。(AGB Nippon)