苫小牧IRの支持者は永遠と希望に満ちているようだ。北海道の鈴木直道知事が何度「ノー」を言っても、彼らには「もしかして近いうちに」に聞こえているのかもしれない。
苫小牧市は日本のIRプロセスにおける先行者であり、現状にフラストレーションが溜まっていることも理解は出来なくはない。当初は都市型IRの候補地以外では事業者の関心が最も多く集中していたのは北海道だった。ハードロック、モヒガン・ゲーミング、ラッシュストリートとクレアベストという4社は全て市内に事務所を設置していた時期もあったく。
もし苫小牧市がIR誘致を前進することが出来ていれば、地方型IRとしては長崎や和歌山に勝る部分があるため、政府から区域認定を受けることが確実であるとされている時期もあった。
しかし足枷になったのは道庁と道内の世論にあった。
高橋はるみ前道知事はIR誘致に前向きであったと言われているが、任期が満了するまで決定的な発言は避けた。もし5選を目指す判断をしていれば、苫小牧IRの方向性もちがっていたのかもしれない。
そして2019年4月、新しい道知事に当選したのは鈴木直道氏であった。IR推進者たちは当時、IR誘致の打ち切りを公約にあげていた石川知裕候補に大勝した鈴木知事誕生を歓迎した。
鈴木氏は知事選を行っていた時、苫小牧IRのイニシアチブについてはどうするかは未定であり、当選した場合はじっくりと検討することを約束した。
IR推進者は不人気なカジノの合法化にあえて触れることなく、当選すればIRの味方になるに違いないと考えていた。
だからこそ鈴木知事就任から7か月が経過した時点で、知事は実際にIRについて決心がついていなかった事実にIR推進派は驚きを隠せなかった。より具体的には、鈴木知事はIR誘致に関して同調する気があったとしても、自ら先導するつもりは無い態度を見せ始めた。
鈴木知事は就任後、まずはIR誘致が道議会内でどのように議論されていたのかを見守った。そして2019年11月、道議会で僅かながら過半数の議席を持つ自民党が2日間IRについて議論した結果、知事は与党としても意見がまとまらないことに気付いた。IR誘致の支持が不十分であると判断した知事は直ちに方向性を確定させるためにも北海道が第一ラウンドのIR誘致を見送ると発表した。環境アセスに要する時間が主な理由に掲げられたが、本質的な理由としてはIRに対する道全体における低い支持レベルが存在した。
苫小牧IRの推進者たちはこの「ノー」を受け入れることは出来なかった。苫小牧市の岩倉博文市長を筆頭に市役所では諦めないという強い思いが生まれ、ハードロック・ジャパンのように最後まで終わりを信じない層が民間側でもみられる。
この辺りでは「ノー」は真意ではないことを最後まで信じる者たちが多くいた。もしかして中央政府の菅義偉氏の影響やIRを推進する不明朗なメディア報道などにより、知事が態度を変えるかもしれないと期待していた。
また、政府のIR区域認定のプロセスが9か月伸びたことにより、希望が再び湧きだした。苫小牧市側はこれで十分な環境アセスが可能であると主張した。そして、毎度のように「北海道はIR再検討」という報道がゲーミングメディアを中心に回り始めた。
しかし蓋を開けみれば、2019年11月以降、諦めることが出来ないIR推進派が最後の可能性にしがみついていた事にすぎなかった。
そして先週、鈴木知事は再び今ラウンドのIR誘致を進めないと発言した。9か月の時間が増えたとしても環境アセスと道内の準備には時間足りないとし、さらに今は新型コロナウイルス対策が最優先事項であると語った。
とあるゲーミングメディアでは「知事の発言を詳しく考察すると、この問題に関して一切断固とした立場を取っていないことが分かる」や「北海道が日本のIRレースから完全に撤退したかを決めるのは幾分時期尚早のように見える」と報道されていることは驚きではない。
楽観的な視点は時には大事であるが、現実が見えなくなってくるとそのポジティブ思考が罠になることもある。(AGB Nippon)