「カエサルの妻たるもの、そのような疑いすらかけられてはならない」という2000年以上前に異国で語られた政治的な英知は今、日本のIR産業にとって良い教訓である。
この言葉は、紀元前62年のローマ共和国でユリウス・カエサル(Julius Caesar)が妻のポンペイア(Pompeia)の不貞噂をめぐり離縁したことが起源である。そのことを問われたカエサルは「カエサルの妻たるもの、そのような疑いすらかけられてはならない」と応えたようだ。
何世紀にもわたってこの言葉は様々なふうに解釈されてきたが、その中核には公人また公人と親密にしている人は不正を疑わせないように気を付けないといけないという点である。
自民党の秋元司衆院議員の罪は不正を疑わせたことだけであるにせよ、カエサルの言葉の教訓をしっかり学んだでしょう。
今週、東京地検特捜部が秋元氏に事情聴取し、元秘書2名の自宅を捜索したことが明らかになった。
この事件で調べられている犯罪は、IRライセンスを目指している国際的事業者を巡るものであり、秋元氏は2017年8月から昨年10月まで内閣府副大臣を務め、IR政策を担当していたというのが重要となっている。
初期報道によると、特捜部は日本のIRライセンスを目指しているシンセン市のスポーツ・ロッテリー企業関係者が多額の現金を税関に無届けで国内に持ち込み、外国為替及び外国貿易法違反として捜索しているようだ。
しかし、現時点でメディアに明かされている以上の込み入った事情となっている可能性があると考えられる。
これはただ単に中国のビジネスマンが現金の税関手続きをしなかったというのであれば、なぜ特捜部が関わるひつようがなるのか。特捜部の注意を引くには犯罪の重度が低いと考えられる。また、なぜ議員の元秘書の自宅を捜索し、その議員に事情聴取を行う必要があるでしょうか。
最終的には大した事件ではないという結果になるかもしれないが、現時点ではより大きなスキャンダルの序幕のようなものだ。
秋元氏は自分の無実を強く主張している。現在のところ、事件の真相について言えることはない。秋元氏は主張のとおり不正なことをしておらず、同氏にまつわる疑惑は片手落ちであるかもしれない。
しかし、日本の未熟なIR産業にとってこのようなスキャンダルは絶対に避けたいものである。
カジノ合法化の反対派は、国内にカジノを開発することは犯罪、汚職、治安悪化への扉を開くようなものだと何年も主張している。例えば、カジノがマネーロンダリングの場となってしまう恐れが主な不安点の一つである。
また、政界の上層部まで伸びる斡旋収賄の非難が囁かれている。よく報道されてきたトランプ大統領・シェルドン・アデルソン氏(Sheldon Adelson)・安倍首相をめぐる件のような大きなものもあれば、菅義偉官房長官が横浜IR誘致の黒幕であるという小さくてもよくある噂もある。
秋元司衆院議員が2017年8月に那覇でIR支持をしたシンポジウムにて、シンセン市のスポーツ・ロッテリー企業が日本でIR事業者になり沖縄の未公開場所に25億米ドル(約2740億円)の投資を目指す提案を発表した。これは秋元氏がIR政策を担当するようになった同月である。
那覇のシンポジウムの裏で、もしくはその後のロビー活動中に犯罪が行われていたとしたら、IR産業そのものの評判への傷が非常に大きい可能性がある。
世論はまだカジノの合法化に反対しているだけで、いくつかの自治体が誘致競争から身を引いている。このスキャンダルもしくは似たようなスキャンダルにより、反対派が主張するように日本の政治体制が海外から大きな現金流入を確実に管理できないことが証明されたら、事態がどこまで悪化することか。
カエサルの妻と同じように、日本のIR産業とIR賛成派の政治家は「そのような疑いすらかけられてはならない」を心掛けないといけない。(AGB Nippon)