様々な困難があっても、今年に入ってから日本のIR開発プロセスが再び前進しているのは明確である。4つの自治体が正式にIR誘致に手を挙げ、日に日に可能性が減りながらも、その他の自治体も誘致を仄めかしている。
前代未聞の1年となった2020年だったが、2021年になって蓋をあけてみれば4つの候補者のうち、3つの自治体の立場が弱まり、1つが勢いを増した。
まずは最近注目してきた横浜。こちらは4か所の中では一番不確定要素が大きい。横浜市は先週、平静を装いながらIR事業者の公募プロセスを開始したが、林文子市長の再選が厳しいとの見方もある今夏の市長選が横浜IRの未来を左右する。
大阪に関しては公募の入札希望者が1つしかいないことが不利に働いている。また、大阪都構想の住民投票が否決されたことで、大阪の松井一郎市長が任期満了で政界引退を表明したことにより政権が弱まる。当初計画されていた夢洲への線路延伸や大規模の駅ビルは過去の話となっている。
和歌山県では延期が常に轟かれていた国のIR区域認定計画の元の申請スケジュールを忠実に守る判断を下した仁坂吉伸知事が、安倍政権の言葉を信じ社会情勢とコロナ禍の影響を軽視したため、自ら県の挑戦の足を引っ張った。和歌山県の事業者公募のタイミングの悪さと柔軟性の無さにより、入札希望者は理想的なマッチとも言い難い2者のみ。
長崎県のみが2020年を有効な使い、苦しい一年で勢いを増した。国のスケジュールの遅れを活用し、九州全体の協力を得ることに尽くした。また、和歌山県とは同じ過ちを犯さず、他の自治体では事業者の撤退などが続いた中、確実に事業者の関心を引く動きをみせた。和歌山と長崎のどれかが唯一の地方型IRとなるのであれば、現在は長崎が有利な立場にいるようにみえる。
長崎を除いて国民の多くが置いてけぼりになっている中、国のIRプロセスは菅政権の下で進んでいる。
菅義偉首相は現在多くの政治的問題を抱えているため、年末まで総理大臣の座に残れるかが疑問視されている。特に2021年の選挙日程は支持率の低さとカリスマ性の欠如を吐露している首相には厳しいものになる。
7月4日には東京でも都議会選が待ち構えている。ここでは国政与党の自民党と、機転が利く東京の小池百合子都知事率いる都民ファーストの激闘が予想される。
その時までには東京五輪開催の答えも出ている。しかし菅首相にとっては五輪が開催されたとしても支持率を向上させるスケールで行われるとは考えにくい。
そして秋までには衆議院議員総選挙と与党の総裁選も控えている。与党内からは日本のメディアに、暗くて不機嫌そうな菅首相は総選挙を戦い抜くにためのリーダーには適していないと言い始めている。
菅首相が陥落した場合、IR政策も一緒に消滅するのであろうか。
その答えは限りなく「ノー」に近い。現在の進行具合こそがIR整備を決定的なものにしているといっても過言ではない。奇跡的に野党側の政党が国政を勝ち取らない限り、次期総理大臣もIR政策を引き継ぐであろう。
しかし忘れてはならない事実として、菅首相は横浜のIR誘致においては政府側後援者であり、国政の二番手ともいえる二階俊博幹事長は和歌山の後援者である。実際にIRの区域認定において、二人がトップの座にいないことは影響を持つ可能性もある。(AGB Nippon)