政府にとって、MICE(研修・招待旅行・会議・展示会)産業の拡張が3ヵ所のIRの重要な要素となることが明らかであるが、有識者はピカピカで真新しい展地場だけでは成功することはないと警告している。むしろ、必要となるのは社会・教育面での変革だが、それはほぼ始まっていないと言える。
マカオ大学の国政IRマネジメント部門のグレン・マッカートニー准教授(Glenn McCartney)は、MICE産業の将来全般に関して前向きな考えを持ち、スカイプなどのテレビ電話技術やデジタル化が進んでも、そういったツールはビジネスに必要となる人間的な要素が欠けてしまうと指摘した。
マッカートニー准教授は「人間と言うのは握手がしたいものです」と語り、「顔を合わせて、取引をする前に相手のことを知りたくなります」と述べた。
それでも、マッカートニー准教授はMICE産業の「ハードウェア」だけでは好ましい結果をもたらせないことを認める。時にはこういった施設は経済的原動力ではなく消耗となることもあると。
「世界中の色んな都心で何度もあった展開です。展地場を作ったところで、いかに人を呼び寄せるか、いかに席を埋めるかが問題ですよ。」
「一年はかかります。リードタイムで2年間です。いきなり扉を開いて会議が出来るわけではありません」と付け加えた。
また、日本が大阪や横浜などでIRを開発し、既存の施設(東京ビッグサイト、幕張メッセなど)より大きくて近代的なMICE施設をけんせつしたところで、より大きな展示会が必然と日本で開催されるようになるとは限らない。
「すでに積極的なMICE産業のある上海、広州、香港、シンガポールなどと競争することになります」とマッカートニー准教授が指摘した。
世界中のビジネスパーソンが日本を活動的で刺激のある「会議ホットスポット」としてみるようになる都市のブランド化の大切さも指摘された。
日本、中国、東南アジアでコンシューマーマーケティングとコミュニケーションを専門とする人材紹介会社セクター・ファイブ(Sector Five)の創業者兼最高経営責任者であるジェーソン・エイアーズ氏(Jason Ayers)はマッカートニー准教授と意見が一致し、「日本を目的地として売り出すことが重要」と述べた。
ある意味では、日本はすでに有利な立場にある。世界中の多くの人々が日本の文化、綺麗な景色、町の清潔さに憧れ、自分の目で日本が見たい。これは展示会やコンベンションに人を呼び寄せることに繋がるでしょう。
しかし、それだけでは限界があり、MICE産業の「ソフトウェア」にも注目を与えないといけない。例えば、日本は丁寧で手厚い国として広く認知されているが、言葉の壁が絶えることのない難関である。国際的ビジネスパーソンはホテルのスタッフやMICE施設の管理者とコミュニケーションが取りたいものだ。
エイアーズ氏は人事育成に注意を払う必要があると指摘した。現時点では、日本の最も優秀な大学生は就職先としてIRのことを考えていない可能性が高い。IRはリスクのあるもので、社会的評判が曖昧、難度の高いものとして見られているかもしれない。
同氏が考えるには、この問題は超えられることが可能で、賢いバイリンガルな日本人を集めることも可能だが、IR側が高い給料を与えることが重要となる。
日本のIRにおけるMICE施設は成功するかもしれないが、その結果にたどり着くためには努力、効果的な戦略、そしてもしかしたら現時点で考えられている以上の文化変化が必要になる。(AGB Nippon)