すべてのIR誘致候補地は何らかの形で現地民による抗議に直面しているが、最も注目すべきは林文子横浜市長に対するリコール運動である。
林市長はIR開発を進めた時点でどっちみち政治的な難関にぶつかる運命だったが、リコール運動を恐れなければならない原因は他ならぬ林市長の不誠実さだ。
2016年の林市長は、山下ふ頭のIR開発に対する賛成を明らかにし、調査などを委託して開発プロジェクトに人員を配属した。
しかし、かつて衆議院議員だった元逗子市長の長島一由氏が2017年1月に選挙の出馬を表明したとき、再選を阻むライバルができた林市長は、欺く行為を選んだ。
カジノ反対が長島氏のキャンペーンの目玉となり、多くの現地民が反対する政策の地雷場であるカジノ話題を林市長が避けたかった。IR問題から注目をそらすために林市長はIR開発に対する賛成のスタンスをすばやく変更し、「白紙」という立場を貫くようになった。
2017年の市長選で対決した挑戦者二人も林市長のカジノ賛成スタンスが変わっていないと主張していたが、林市長は自身の8年にわたる市長としての成績の話に焦点を維持することができた。
投票所出口調査によると現地民の対多数がカジノ開発に反対していたものの、林市長は余裕をもって二人の挑戦者に勝ち、市長3期目に就任した。それから2年も時節を待ち、公には「白紙」のスタンスを採択しながら密かに準備を進めた。
林市長には別の道があったということは指摘すべきだ。大阪、和歌山、長崎など指導者はそれぞれのIR賛成政策が政治的な不利になるにもかかわらず自分のものとした。その指導者たちが誠実に選挙に挑んだ結果、IRを賛成しているのに今はリコール運動に対処しなくて済んだ。林市長はどっちみち2017年7月に勝利を収めることができたはずだ。
林市長がIR開発に賛成しているだけでなく、将来のためにも「危機感」が必要だという2019年8月の発表は、最近になって「白紙」の考えからしぶしぶと離れたように聞こえなかった。
横浜のカジノ反対勢はもちろん愕然としたが、さほどビックリしなかった。これで反対勢は意見を決めかねていた現地民に林市長が嘘をつき市民の信頼を裏切ったからリコールすべきだと根拠強く訴えることが可能となった。
横浜のIR誘致立候補に民主主義の正当性があるとはさすがに言い難い。住民投票は今までなく、IR賛成の土台で市長に就任した市長候補者もいない。
また、林市長リコール運動は見るからには何人かのお年寄りが集まったピケよりも組織されたものになっている。ウェブサイトにソーシャルメディアもある。ボランティアを募集し、中道左派の政党すべての支持も得ているようだ。
ウェブサイトではリコールの理由について「とても悲しいことですが、市長と市議会は、市民のカジノ反対の声にもかかわらず、カジノ誘致を強行するつもりです。これまでの市長の姿勢を見る限り、カジノ誘致を止めるには、市長リコールしか方法がないのです」と説明している。
新型コロナウイルス感染症によりリコール運動を設定し直すことになったが、10月11月にリコールを引き起こすのに必要な50万人の著名を集めることに挑むと発表した。
人口が376万人の横浜では、リコールを支持する50万人の著名を集めるのはハードルが高かい。このような運動の多くが失敗に終わる。
しかし、リコール運動に勝ち目がないと決めつけるのは間違いだ。リコールもしくは2021年夏に控えている市長選でIRを支持する政権の完全なる崩壊が可能な誘致候補地があるとしたら、それが横浜だ。(AGB Nippon)