横浜の林文子市長は3ヶ月前の記者会見でIR誘致の是非を問う住民投票の結果を尊重する姿勢をみせた時、市長の言葉に重みがあると受け止めたことは間違いであった。市長のIR政策に対する執着を過小評価していたのかもしれない。
問題の記者会見が行われた昨年10月、市民団体による「市長のリコール」と「IR誘致の是非を問う住民投票の実施」をそれぞれの目標にした別々の署名活動が進んでいた。その事実に対して市長は「もし住民投票が行われ、IR反対が多数であれば、結果は尊重したい」と述べた。
その後、我々は「何か大きな変化がない限り、この理論的な考えが避けられないように見える部分となる」と考え、横浜IRのイニシアチブは終わりに向かっていたと分析した。
しかし当時の分析にはもう一つの可能性についても言及した。「特に深読みをする人物なら、林市長が自分への脅威となるリコール運動の勢いを妨害するために住民投票を尊重することを約束しただけであると仮定するかもしれない。どのみち、このような結果となれば、林市長がIR誘致の問題で住民をだましたのは初めてのことでもない。」
残念ではあるが、今回の出来事により政治家は自分が求める結果を得るために手段を選ばないことが判明した。
市長のリコール運動を統率した団体が当初残した言葉も現実となってしまった。「とても悲しいことですが、市長と市議会は、市民のカジノ反対の声にもかかわらず、カジノ誘致を強行するつもりです。これまでの市長の姿勢を見る限り、カジノ誘致を止めるには、市長リコールしか方法がないのです」
また、IR誘致の是非を問う住民投票を求めた署名活動は、必要数の3倍以上の署名をコロナ禍の中で集めたにも関わらず、与党が過半数の席を持つ横浜市議会は先週、住民投票条例案を否決した。
林市長はさらに追い打ちをかけるように、市議会には否決するように否定的な意見を付け加えていた。横浜商工会議所などはIRに賛成しているため「民意」は得ているとした。そのため、住民投票の実施について「意義を見いだしがたい」と意見した。
この説明では市長は民意を得ていない政策を強引に進めているだけではなく、民意に対しても正面から対抗していることになる。市長曰く、政界とビジネス界のエリートが政策に賛成していれば、19万人の署名を集めても一般市民は意見する場も与えられない印象が残る。
結果的にはリコールもIRに対する住民投票も実施されることはないが、林市長は今夏の市長選は免れるわけにはいかない。その時こそ、市民と本当に向き合わなければならない。
今までのやり方から習うと、市長はおそらくIR政策を押し通すには、まずは他の問題が世間の関心を引いていて、市長選では野党が一人の対抗候補に推薦がまとまらない状態になることだと理解しているはずだ。また、その他候補者も加わり、状況をかき回すことも考えられる。
それはともかく、林市長のIR誘致に対する執着心は市民の反感を買い、投票日にはその拒否反応の結果が出る可能性は大いにある。(AGB Nippon)