日本IRの動向を深く追っていれば、大手IR事業者が投資家と話す内容と日本のメディアと話す内容の違いに気付くであろう。
先週、MGMのCEO兼社長のビル・ホーンバックル氏(Bill Hornbuckle)がバーンスタイン・アニュアル・ストラティージック・デシジョン・カンファレンス(Bernstein Annual Strategic Decisions Conference)で話した内容が良い例である。
このカンファレンスでは日本に関する質問は1つしか受けていないため、同社が目指す大阪IRの詳細までは説明していないが、コロナ禍による条件の変化に関して言及した。
まずは大阪IRの持ち株は40%になる予定であること、そして開発費用は100億米ドル(約1兆940億円)になると話した。MGMとしては、区域認定を得れば20億米ドル(約2190億円)を日本に投資する。
また、施設の年間GGR(ゲーミング粗利益)は年間50億米ドル、顧客数は年間1900万人になると予想した。
ここまでは日本のメディアと話す通常通りの内容である。しかし、これ以外の部分では海外の投資家と話していためか、日本向けであれば差し控えるようなコメントもあった。
ホーンバックル氏はコロナ禍がもたらした日本IRの遅延により、大阪側が当初要求していたMICE施設の広さとホテル客室の数などの「条件を大幅に下げる」ことに成功したと述べた。
さらに、大阪IRのデザインを再考し、「我々の中核事業であるゲーミングを中心に構えることができる」と言い、最終的には「市には『生産性があり、意味がある部分はこれだ』と言うチャンスがあったので、現在はリターンが良くなったと思います」と現状を説明した。
MICE施設とホテル客室数の縮小および「中核事業のゲーミング」は海外の投資家にとっては喜ばしい要素になるが、IRの意義を家族向けのエンターテインメントと観光推進と主張し続けてきた政府や行政および日本国民にとっては嬉しくないメッセージである。
ホーンバックル氏の前任者、ジム・ムーレン氏(Jim Murren)が2018年2月に日本メディアに語った音楽、スポーツとエンタメを中心とし、施設全体の3%以下と定められているカジノの床面積を2%以下にするという同社の大阪IRから大きくかけ離れている。
もちろんMGMに対して公平な立場から状況をみると、ムーレン氏がこのビジョンを語った2018年2月から世界は大きく変化した。ここまでの規模のパンデミックが訪れ、ライバルが全て撤退することにより大阪側のレバレッジを失う立場になることを誰もが予想できなかった。
従って、ホーンバックル氏の発言を批判する理由もみつからない。現代の資本主義の下、同氏の最大の責任は会社の株主に利益をもたらすことである。MGMリゾーツはビジネスであり、日本国民の意思に応える慈善団体ではない。
コロナ後のビジネス面から現状を見直せばゲーミング事業に依存し、ノン・ゲーミング施設の規模を縮小することは正解であるかもしれない。
日本の国民を守り、公共の利益を確保するのはMGMではなく日本政府の責任であり、国のIR政策が予想を下回る結果を残すのであれば、これは政界のリーダーの問題である。
依然として日本政府のリーダーは、自ら発案し立法したIR政策に不思議に思うほど無関心な態度をとっている。この政策で出てきた多くの問題はこの政府の管理不足と制作能力の無さが原因である。
今後は秋元司元内閣府大臣の贈収賄事件など賄賂や私利に関連して政治家のニュースではなく、IR整備に対する政府の効果的な行動を報じるニュースに期待したい。(AGB Nippon)