新型コロナウイルス(Covid-19)が全国的に流行しているなか、日本の政策立案者の多くが海外の動向に対する意識が薄いこともあり、一つ大きなニュースが注目されていない。しかし日本IRおよび大阪IRの未来にとって、最近のMGMリゾーツ(MGM Resorts)の動きは警鐘を鳴らす物である。
一見、日本とは関係が無さそうなニュースである。
MGMリゾーツが今週、世界有数のスポーツベット企業であり、大手ブックメーカーのラドブロークス(Ladbrokes)を所有するエンテイン社(Entain)の買収を試みているとニュースが流れた。
現時点では買収は成功していないが、MGMリゾーツは110億米ドル(約1兆1314億円)の買収提案を出した。今まで大阪、横浜や東京に世界クラスのIRを開発する予想額を超える巨額である。
しかしエンテインは、運営者側が「当社の現時点および潜在的な価値を大きく過小評価する提案」であったため、MGMリゾーツのオファーを断った。1兆円を超える提案でも低すぎるという状況にいる。
MGMリゾーツは米国市場におけるスポーツベットおよびiゲーミング(igaming)の新部門であるBetMGMに注力しているが、実はBetMGMもエンテインとの半分ずつ分け合うジョイントベンチャーである。
ユニオン・ゲーミング(Union Gaming)のアナリストはMGMリゾーツの方向性を評価している。
「エンテインを買収出来れば、MGMは地上のカジノとエンタメビジネスに、デジタルなゲーミング部門を統合することが可能になる。」
「エンテイン買収の道筋はMGMにとって戦略的であり、複数のチャンネルから顧客獲得を行うことによりBetMGMの投資利益率を上昇させるものになると思います。」
バーンスタイン・リサーチ(Bernstein Research)のアナリストは「MGMはデジタルベットに集中すること」になれば、ラスベガスとマカオのカジノに依存する必要が減ると見込んでいる。
更にバーンスタインは日本にも触れる。「MGMにとって、エンテイン買収は結果的に大阪での大きな開発案件に対する熱量を下げることになりそうです。日本における機会は多くの遅延を経験しており、潜在的な利益に対する巨額な開発費用は依然として不安を残す。MGMは日本IRから撤退、または出資を下げる可能性があります。」
MGMとオリックスのコンソーシアムが夢洲IR唯一の入札者となった大阪にとって、このコメントの中にIR誘致に与える大きな影響が明確である。
もちろん話はまだ憶測に過ぎない。現時点ではMGMの提案をエンテイン側は受け入れていない。また、MGM側も大阪に対して撤退するとも発言しているわけでもなく、同社の担当者は今でも大阪にコミットしていると言い、撤退の噂を否定している。
今回のMGMリゾーツとエンテインのニュースから一つ重要な事実は、ラスベガスの大手であり長い歴史を持つカジノ事業者でさえ、実際にカジノよりデジタルな世界に未来を見出し始めていること。
日本でも菅首相は「DX」など流行語を使って「デジタル変革」を積極的に掲げているが、国や地域の政策立案者達に「デジタル変革」と「IR開発」を結び付けている様子はうかがえない。
しかし、バーンスタインのアナリストが挙げたMGMリゾーツが夢洲IRよりスポーツベットとiゲーミングを選ぶという可能性は注意を促すものである。
日本IRのインスピレーションとも言われるマリナベイ・サンズ(Marina Bay Sands)のようなシンガポールIRが開業したのはもう10年以上前の2010年。日本IRは既に20年以上の遅れをとることになり、このギャップは大きくのしかかるかもしれない。
新型コロナウイルスにより日本IRの予定が遅れたことは誰もが認める事実だが、この世界的パンデミックによって加速したビジネスのデジタル化がゲーミング産業にも該当することに気付く必要がある。(AGB Nippon)